コーティング技術解説コラム
薄膜を作るには

真空とは

【JISの定義】「大気圧より低い圧力の気体で満たされている特定の空間の状態」
(真に空のことを「絶対真空」と言いますが、現実的には概念だけの真空です。)
真空にした気体の成分は空気とは違い、水,水素,窒素,一酸化炭素,二酸化炭素,アルゴンなどが主成分となる。
真空の状態が10倍進むと、気体分子が1/10に減少する。また、平均自由行程が、10倍となる。
(平均自由行程とは、飛び出した分子や原子の粒子が、全く何も衝突せずに直進できる距離の平均値。)

極超高真空
(Extremely high Vacuum)
10-8Pa以下(7.5×10-11Torr以下)
超高真空
(Ultra-High Vacuum)
10-5~10-8Pa(7.5×10-8~10-11Torr)
高真空
(High Vacuum)
10-1~10-5Pa(7.5×10-4~10-8Torr)
中真空
(Medium Vacuum)
100~10-1Pa(7.5×10-1~10-4Torr)
低真空
(Low Vacuum)
約100,000~100Pa(約750~7.5×10-1Torr)
ドライコーティングの真空領域

ドライコーティングで薄膜を形成するには、真空が不可欠です。その理由に二つの大きな要素があります。
一つは、大気圧で薄膜材料の金属などを加熱して蒸発・気化させるには、数千℃の温度が必要です。しかし、気圧を下げた高真空の状態では、千℃前後の温度で金属を蒸発・気化させることが可能となります。真空域と金属などの蒸気圧で蒸発・気化する温度は異なりますが、その原理を利用した技術が「真空蒸着」です。
もう一つは、PVDのドライコーティング技術に関する大きな要素です。ドライコーティングを行う真空中には、数多くの気体分子が存在しています。その中で成膜材料の粒子(原子・分子)を蒸発・飛散させて薄膜を形成する際に、成膜材料以外の物質や気体分子があまりに多く存在すると、形成する薄膜に気体分子などが巻き込まれて、最密構造である薄膜の質が低下します。また、必要な真空域にない場合、存在する気体分子が障害となって、薄膜の材料粒子の平均自由行程が低下し、PVDのドライコーティングに支障となり、薄膜が形成できない場合もあります。

※スパッタリングの場合、10-2Pa以下の真空にし、プラズマ放電を利用できる真空域までスパッタ用ガスを注入します。